火の記憶
歌集
自選五首
転居するたびに新たな職を得てピサの斜塔のごとき安定
飛ばされているのか飛んでいるのかと風強き日の蝶に問うなり
沈黙の美徳のすえの限界の製氷皿の氷の罅よ
涼やかにそうめん入るるみずいろのガラス食器は火の記憶持つ
鞦韆に〈小さい秋〉があることのさみしさ秋は揺れやまぬなり
一集に繰り返し歌われるさびしさは誰のものなのか。ロスジェネとひと括りにされる世代のものか、それともこの歌人特有のさびしさか。社会につねに居心地の悪さを感じながらも咀嚼できないもどかしさ、その違和感を詠い留めることで救われることもあるだろう。
さびしさに点る蛍は胸に住み今宵は青くまたたきやまず
諦念を抱えながら、しかしそれでも歌にし続ける熱量が静かに底流する。・・・「帯」より
装幀 上野かおる
「涼やかにそうめん入るるみずいろのガラス食器は火の記憶持つ」
水と火のイメージで作成しました。
本を開いた時に目に入る見返しの色も、前と後で変化をつけました。
表紙は高級布クロスに金箔押しです。
四六判上製
208ページ
2300円(税別)
ISBNコード
9784861985423