逆光の鳥
歌集
墓石に刻まれてある命日は被爆の日より秋が多かりき
遺族席にわれは座りて炎天に立ちつづけゐる数多の参拝者
母と、一族が体験した広島の原爆。その記憶を受け継いでいく時間の流れが、静かな光を帯びて歌われている。自らの発病の歌など、逆境を詠んだ歌も多い。しかし、苦しみを超えて、平穏な一日や身辺の風景に滋味を見いだしていく姿勢は、つねに貫かれている。淡々としているように見えて、強い。コントラバスを弾く夫など、ともに生きる人々の姿も、とても魅力的である。
E線を押さへるきみの左手の指輪はづされ匣(はこ)にをさまる
・・・吉川宏志「帯」より
A5判変型上製
222ページ
2500円(税別)
ISBNコード
9784861984105